2012年3月29日木曜日

ドイツ研修レポート:住宅開発

ドイツ研修レポート:住宅開発
(株)Arch
小俣光一


日本では、古い山間の民家が住む人もなく、朽ち果てていくか、解体されていくのをよく耳にする。300年の歴史を持つ京都や古い町並みの町屋・民家も壊され、新しいマンションに建て替えられていく。その設計士は言い訳のように、「周辺の民家の軒高と色・素材に合わせてデザインしました。」と説明している。

文化住宅として建てられた昭和初期のRC造のアパートメントも建て替え計画の基に姿を消している。ところが、ヨーロッパでは都心部に当たり前のごとく、築100年を超すアパートメントが存在している。そこには、年老いた老人が多く生活しているが、一方でそこに愛着を持った若者が住み着き、その多くが長く生活を続け始めている。彼らの生活には、日本の10坪のワンルームマンションに生活する若者達とは違って、各個人の個性を生かしたライフスタイル満載の空間が広がっている。



グロースジードルング・ブリッツ・フーファイゼンジードルング:馬蹄形集合住宅(ベルリン)

ヴァイセンホーフの集合住宅(シュツットガルト)
日本人のほとんどが、ヨーロッパの建築は石造りで頑丈だと思っているが、そのほとんどは煉瓦積みの構造に木造の梁と木造の床貼りで出来ている。内装仕上げもメンテナンスの行い易いものを使いペンキやクロス貼りで個人の好みに合わせている。場合によっては、キッチンやバス・トイレなども自分でホームセンターに行き、好みのものを買って設置・改装している。「古い=使いにくい」ではなく、「古いものを自分流に大切に使って住みやすくする。」ことを行っている。日本人は、いつの間にか与えられた物を言われるままに使い、規律を守って生活する。それは、まるで牢獄に住むようなライフスタイルになってしまっている。

日本でも「自分の家は、自分で作る。」これは当たり前だと思う事が、実は出来ていない。200~300万円の新車は、カタログを見たり、試乗して見たり多くの意見を聞き集め購入を決める。しかし、3,000~5,000万円のマンションや戸建て住宅は、パンフレットとモデルルームを見ただけで立地と金額をベースに購入を決定する。仕上げや下地の研究をしたり、設計者と直接会って設計主旨や設計内容について詳しく聞きたいという人は少ない。更には、決っして「キッチンの位置と形状を変更したい。」とか「内部の間仕切りプランを変更したい。」などと言う要望を出す購入者は多くない。これは、建築基準法やデベロッパー・ゼネコンの都合によるところが多い。


   
ヴァイセンホーフの集合住宅(シュツットガルト)

 ヨーロッパでの建物に対する価値観は、大きく日本と違っているようだ。日本では、戸建て住宅もマンションも35年ローンが終わる頃、資産価値が無くなる。残りは土地費だけである。しかしバブル以降土地費も下がり、大きな損失を個人が受けた。ではヨーロッパでは、どのような考えが基本となっているのだろう。細かいところまではそれぞれの違いがあるので明確には出来ない。しかし、最低でも日本の2倍のローン期間が組まれる事がある。更にはローンの返済が残っていても中古住宅販売システムがしっかりとしている為に建物の価値が下がりにくい。よってローンの返済は、自分が住んだ期間(使った年月の分を償却)のみ負担し、それに応じた分のみ資産価値が下がる。


しかしその頃には自分が必要とする規模や立地・住宅の種類が変わり、次の生活に合った物が購入出来る。だからこそ一般の購入者が、新築の住宅やマンションを購入する際に品質やデザインにこだわるのだ。

当然、市場にも日本のような手抜き工事をした建物が出回る確率は低く、品質の高い物件のみが供給されるようになる。金融機関や損害保険会社そして行政・政府に至るまで、住宅開発に対して厳しい目を持った上、開発者とエンドユーザーに支援する。


      

       


   


                      


  最近、友人が15年ほど前に購入したマンションの、内装リニューアル計画を依頼された。4階建ての鉄筋コンクリート壁式構造の一階部分の住戸である。100㎡近い都心のマンションとしてはかなり大きい住戸である。しかしながら、構造壁が薄い割には、そのほとんどの間仕切り壁=構造壁となっているため、プラン変更がほとんど出来ない。15年もすると、家族構成も変わり生活スタイルも変わる。更にはここに住む家族そのものが世代交代しようとしている。時代の変化に対応出来ないマンションになってしまっている。当然、構造壁に規制された設備や住宅性能へのグレードアップにも対応出来ない部分が多くある。


 壁式構造のリニューアルの対する問題点を購入時には、評価の対象にすることは少ない。日本では専有面積が小数点以下の単位で売値に影響するため壁の厚みを薄くする事で算出面積が増える事にこだわっている。ヨーロッパの建物では、大きな開口と空間を確保するために梁を大きめに取りそれに合わせ壁厚を大きくとる。大きな空間を確保する事は、将来のリニューアル・プランニングの自由度が高い。また高制限も階数制限の方が多いため階高も大きくとる。これも将来に対する自由度の高さに、大きな影響を持つ。


ベルリン・カンプス(ベルリン)

空間としての建築は、躯体の性能や防水・断熱・開口部など基本性能が厳しく問われる。日本においては、住宅メーカー独自基準や建築基準法など一定の基準を満たしていればコマーシャルなどで優れた住宅としてPR~販売する。ヨーロッパでは、住宅建築において良い品質の住まいとは、細かなデーター基準でPRしない。100年・200年・300年の間、耐用してきた建物がどのような仕様・作り方であったかを知り、それによりどのような住宅環境が得られるかを肌身で感じ購入の基準とするようだ。更には、子供達が育つ環境や自分たちのライフスタイルイメージが作れるか決め手として大きい。これらにより、自分の判断基準で購入を決める。

自動車業界においても日本には、チューンナップメーカーやパーツ販売店が少ない。ヨーロッパではパーツの値段も安いが自分の好みに合わせた車に換えてくれるお店やメーカーが沢山あり、これらを利用するオーナーも多い。それにより古い車も、パーツを換えながら長く乗りついでいく。これは、かなりエコな事でもある。また、性能においてもパワー数値を気にする日本人に対して、ヨーロッパではトルク数値を気にする。環境面でもハイブリッド車や電気自動車に日本では急激にシフトしているが、ヨーロッパではクリーンディーゼル車をベースに燃費を気にしながら高性能・高出力な長く乗れる車作りを行っている。


 ヴェストハーフェン再開発地区(フランクフルト)



住宅の話に戻るが、ヨーロッパでは窓の外側にブラインドやシャッターを設置し熱負荷の調整や防犯効果を生み出している。日本ではほとんど開口部の外側にブラインドを設置する事例は少ない。錆や汚れを気にする事が影響していると考えられる。

珍しいところでは、住宅やオフィスの窓に日本の伝統である雨戸と同じ物を木製・アルミ製で設置している。おそらく防犯や熱効率など考えられた上で採用していると思われる。しかしながら日本のように取って付けた雨戸ではなく、デザインの一部として素材や色・納まりを工夫したすばらしい物が多い。



    
ベルリン市内:古い街並みに並ぶある住宅の建設


また、既存の建物に鉄骨で後から付けたバルコニーをよく見かける。日本ではマンションに避難上の理由からバルコニーが設けられている。昭和の時代には、物干し場の用途としてバルコニーは利用されてきた。しかし今では、超高層のマンションを始めとして景観上の問題や落下防止の理由からバルコニーでの物干し利用を規制する事例も少なくない。韓国や中国では高層マンションにおいて竣工直後は開放型のバルコニーであるが、しばらくすると、バルコニーの手前にガラスカーテンウォールや開放部分に防風スクリーンを取り付けさんテラスのように利用している物件を多く見かける。

ヨーロッパでのバルコニー利用は、主に日光浴のためのスペース利用が多い。少し寒い日でも休日の朝から、ビキニ姿でビーチデッキを置き読書を楽しむ人々を多く見かける。そこには必ずと言って良いほど、プランターに小木や花が植えられ飾られている。クリスマスには、バルコニーを飾り付けスペースとして利用し、近所の人々とのコミュニケーションツールとして活用する。季節感を通して地域への関わりを作るのもバルコニーやテラスそして縁側スペースの役割でもある。日本で作られた伝統的機能が、日本で忘れられ遠いヨーロッパで見直され活用されているのだ。日本で建築に関わってきた人達は、何をやっているのだろうか。考え直す時期に来ているような気が強くする。

改めて、住宅に関しては住まう事・ライフスタイル・価値観・住宅政策について真剣に考えなければいけない事を感じる。



ケルン市内に見た後付けのバルコニー




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