2012年3月8日木曜日

ドイツ・ウィ-ン研修 レポ-ト

ドイツ・ウィーン研修 レポート
(株)Arch5
小俣光一


環境配慮のオフィス:光と見えない水の力

現在、日本でもガラス張りの高層オフィスが多く建てられている。しかしながら何処か本質の部分で違っているような気がしていた。かっこの良さだけが日本人の目に入ってきて、本来の目的や主旨が読み取れていないまま物まねデザインをしているからかもしれない。


ドイツのボンにあるポストタワーは、5万㎡の敷地に建築面積7000㎡で107000㎡の床面積の40階建てのオフィスビルとして建てられている。ドイツポスト株式会社・DHLの本社機能として使われている。




特徴は、二つの半円形超高層ビルをエレベーターホールでつなぎ、その他の隙間をガラスの吹き抜け空間としている。このため二つのビルの間にも自然光が降り注ぎ、雪の降る寒い日でも共用部は自然光だけで十分である。もちろん日本人の明るさに対する感覚とドイツ人の感覚は大きく違っている。しかしながら、なれると我々日本人にも違和感がない空間として受け入れる事が出来る。

なぜ極寒のドイツでガラス張りの超高層建築なのかと、考えさせられる。光を取り入れるためだけにガラス張りにしているだけではないようだ。外気を取り入れるための構造や機構そして素材の使い方に関して後から気がつく事が多い。

固い壁に囲まれたオフィスに、比べ何処にいても人の動きが感じられる。廊下の角を曲がったら突然見知らぬ人と会う事がある。挨拶をするまもなくすれ違ってしまう。しかし、このビルに居るとちょっと離れた場所から目が合ってしまう。だから必ず、すれ違う人と必ず挨拶をする。コミュニケーションが自然と生まれるビルである。こんな事が、建築のデザインから生まれ出る。高所恐怖症の人にはつらいビルだが、自分の居場所や目的地の確認がし易い。心地よい環境と使いやすい空間構成は、いつの間にか高所恐怖症を克服してしまい、仕事効率アップにも貢献しているそうだ。






更には、何気ないデザインのようだが、防風スクリーンの役割を兼ねている物や気流をコントロールするためのガラスの庇が複数の役割を果たすためにデザインされている事例が多くある。

ポストタワーの熱源について聞いてみた。敷地の多くを覆う緑の木々の下には、駐車場と機械室が配置されている。敷地の中で地下水を汲み上げ、躯体空調システムに利用した後にその水を地下に戻す。主にコンクリートスラブ:厚さ500㎜の中に地下水用パイプを張り巡らせて躯体の温度を一定にしている。その温度は、13~15℃くらいだそうだ。夏は涼しく、冬は多少加熱する事で柔らかい暖かさが得られる。躯体で温度コントロールをすることに加え、自動調整でカーテンウォールの開口部を開け閉めし効率の良い換気で快適な執務空間を作り出している。夏は人の居ない夜中に涼しい空気を沢山取りこんでいる。空気の流れもデザインの中でコントロールしているのだ。





ヨーロッパの建築の多くは、目を引く為や形だけで特徴あるデザイン提案をしていない。日本においては、建築基準法や条例・地区計画に縛られてデザインが決まる事例が多い。自動車のデザインもこれらの傾向が強い。たとえば自動車のポルシェ911は、数十年基本的な形が変わっていない。低重心・風抵抗・安全性などが全て、盛り込まれ今の形がある。東京駅の周辺における海からの風を意識した環境テーマの超高層ビルのデザインも日本以外の国であれば、また違ったタワーのデザインになったのではないかと思う。

単純に四角い建物でもなく、直線の外壁でのない建物に大きな意味がある事を、詳しい説明を聞いて初めて知る事が出来る。日本では建築の専門雑誌が、ずいぶん少なくなった。デザインの意外性や鮮烈さは、観光案内やデザイン雑誌でも取り上げられる事は多い。しかしながら、まちづくりや建物の存在意義・設計主旨について詳しく述べられる本は、少なくなった。だから現場に行って関係者に聞くしかないのだ。









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