2011年8月21日日曜日

歴史と共に生きる建築空間の役割(その3)

テレビのある番組で、今回の東日本大震災の復興事業について専門家の人達が話していた。ある人は、国が海沿いの低い地盤の土地を全部買い取り公園にする提案をしていた。もう一人の人は、区画整理を行い安全な避難しやすい道を作る提案をしていた。しかしながらどれも具体性に欠けている。最後の一人が、今更ながら住み慣れた町を離れるのは無理であるから、津波に負けない坂と丘のある町を人工的に作る事を提案した。



2009年に日本ショッピングセンター協会のビジネスフェアーで我々は、埋め立て地にコンパクトシティーを作る提案をした。人口地盤部分に自走式立体駐車場を作り丘陵地のような坂のある町を作る提案である。2万坪のまちにマンションと商業施設サービス機能・高齢者住宅など多世代が歩いて暮らせる町の構成だ。人工地盤の上に設けられた道は、24時間誰もが利用出来るものとし道に面した小さな店舗やSOHOは、ロデオドライブやヨーロッパの街並みをイメージしたデザインだ。これが全てを解決するとは思っていないが、一つの手法として場所により使えるものと信じている。

関東大震災の際の震災復興計画は、インフラと住宅整備が中心となって行われた。高度成長期に向かっての震災復興であったため、この手法で大きく復興に役立った。今回の東日本大震災における復興計画には、欠かせないものがある。それはコミュニティーの形成・育成が可能な町の再生計画である。自治体・行政の非常事態に対するリスク回避も含め、コミュニティーを核とした都市計画は、復興計画の重要な一つと考える。

日本の伝統的建築の中でも最も庶民的な民家は、コミュニティー形成の基に建築が行われて技術や伝統の継承を支えてきた。岐阜の白川郷の民家の茅葺き屋根吹き替えには、地元の住民の方々が100人近く集まり一件の屋根の葺き替えに手を貸す。この繰り返しに支えられ集落は今も残る。

私が建築に興味を持ったきっかけも、父の実家の屋根の葺き替えが中学生の時あった事にある。やはり近隣の方々が大勢集まり一人の棟梁を中心に茅葺き屋根を外す作業を始めた。その時の調査に明治大学の建築学科の方々が来られた事で、建築にも大学がある事を初めて知った。残念ながら、父の実家は茅葺き屋根を後半の屋根に葺き替える事になったが、今も山梨県の養蚕業を生活の糧としていた典型的な民家の構造をそのまま残している。

東京オリンピックから大阪万国博覧会までの間、私の家の廻りでは戸建て住宅の建設ラッシュが起こった。毎月のように、地鎮祭と建前の餅巻きが行われ近所の大勢が手伝いにかり出されていた。子供であった我々は、飲み物と食べ物を振る舞われる事にコミュニティーの表れのお祭り騒ぎを実感し楽しんでいた。現在では新築の数も減ったが、近所の人々が集まる新築工事はほとんど見られなくなった。それと同時に近所に誰が引っ越してきたかも分からなくなってしまった。

今回の東日本大震災は、我々に難易度の高い復興計画と共に日本のコミュニティー形成の再構築を課題として与えているような気がする。単純なインフラ整備や防災性の高い施設・設備計画は、確かに必要ではある。しかし、災害を受けた人々に大きな手助けとなるのは、コミュニティーその物である。この整備を基軸とした復興計画が強く望まれる。

改めて、日本人として歴史から「まちづくり」・「建築」を学ぶ必要がある。いま我々が行わなければならないのは、100年・1,000年の歴史の中で自然や風土が教えた事を守りながら次の世代に残す事の出来る開発・建築~「まちづくり」を伝える事である。建物の品質や建設のコンセプトが「人命に大きく関わる事」を教えてくれた今回の大災害からは、開発・建築~「まちづくり」を他人任せにせず、また企業や権力者の金儲けに開発や建築が行われる事実に目を瞑ってきた事を強く反省しなければならない事を学んだはずである。

あるコメンテーターが言っていたが、「科学的試験やスーパーコンピューター計算によって作られた予測値が、大きな指標になる。しかしながら、専門家や国が基準の線を定めた時点で、人は科学的根拠を無視して基準という線に縛られ物作りを行う。」まさに想定とはいい訳に過ぎない気休めの数値の積み重ねである。

だからこそ、行政や一部の顔の見えない専門家のデーターや数値が作り出す基準を信じるだけでは無く、自分自身が自分達のために確実に良い物であると信じた基準の物作りが必要である。1,000年の単位で「まち」を考え、100年の単位で「建物」を考え、10年の単位で「次の基準」を考え絶えず最良の物を作る新しいチャレンジをする必要がある。専門家や地域に根ざした多くの人々のノウハウを生かし考えられる最高品質の物作りが、環境に良く地域を安全にして経済にも活力を与え歴史を作っていくと考える。



最後に、今回の東北・関東大震災にて大きな被害あった関係者の方々や、災害に遭われて大変な状況にある方々へ、謹んでおい見舞い申し上げます。

少しでも早い復興をお祈り申し上げます。(完)

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